栄養ケアの倫理

管理栄養士のための臨床倫理 卒後教育プログラム

「栄養ケアの倫理」

CLINICAL ETHICS of Nutrition and Dietetic Practice

~様々な現場で起こる倫理的ジレンマを解決する糸口~

いまなぜ臨床倫理か

現在、管理栄養士を取り巻く環境は大きく変化しています。臨床現場における栄養ケアはすでに標準的なものとなり、命に関わる分野にまで及ぶようになっています。医療の高度化・複雑化に伴い、栄養ケアもより高度で専門的な知識と技術が求められるようになりました。管理栄養士は医療職の一員として、多職種と連携しながらチーム医療を担う存在となっており、患者のQOL(生活の質)向上にも大きく関わっています。さらに、患者の権利やインフォームドコンセントの重要性が高まる中、専門職としての責任も増しています。

栄養ケアを実践していると、「うまくいかない」「このままでいいのだろうか」とモヤモヤした思いを抱くことが、誰にでもあるはずです。良いことをしているはずなのに、最善を模索しているはずなのに、なぜか納得できない――それは、価値と価値がぶつかり合う「倫理的ジレンマ」と呼ばれる状況なのかもしれません。こうした視点は、これまでの管理栄養士の専門領域にはあまりなじみのなかったものでしょう。まさに今、「なぜ臨床倫理なのか」を考える時が来ています。

臨床倫理の基礎知識

臨床倫理とは、医療を提供する際に直面する倫理的課題に対処するための原則と実践を指します。管理栄養士は日々の業務において、患者の自律性の尊重無危害原則善行原則、そして公正の原則という四つの基本的倫理原則に基づいて判断を行います。

現代の医療環境では、栄養サポートに関する複雑な意思決定が求められることが増えています。例えば、終末期患者への栄養介入、認知症患者の食事拒否への対応、文化的・宗教的な食事制限の尊重など、多様な倫理的ジレンマが存在します。これらの課題に適切に対応するためには、倫理的感受性を高め、多職種連携のもとで患者中心のアプローチを実践することが不可欠です。本プログラムでは、こうした臨床現場での倫理的判断力を養うための知識と実践的スキルを提供します。

研究背景とWEBサイトの目的

本研究プロジェクトは、2022年から科学研究費助成事業を受け、管理栄養士のための体系的な臨床倫理教育プログラムの開発に取り組んでいます。国内外の医療倫理教育の知見を取り入れつつ、栄養ケア特有の倫理的課題に焦点を当てたカリキュラムを構築しました。プログラムの開発過程では、現役の管理栄養士へのインタビュー調査、実際の臨床事例の分析、そして試験的な教育プログラムの実施と評価を通じて、実践的かつ効果的な内容の精査を重ねてきました。このウェブサイトでは、研究成果を管理栄養士としてジレンマを抱えている皆様によりリーチするように作成しました。解決の糸口になるよう、現場で直面する倫理的な迷いや課題に対して、少しでも指針となる情報を届けられれば幸いです。

研究メンバー紹介

五味 郁子

五味 郁子

神奈川県立保健福祉大学 , 保健福祉学部, 教授

病院や高齢者施設において、栄養ケア・マネジメントの導入や評価に関する研究に従事。 自身や家族の入院経験を通じて、長年心に残る「モヤモヤ」を“ジレンマ”として捉え直し、臨床倫理の道へ進む。 2024年全国栄養士大会「栄養ケアの倫理」では、参加者から多くのコメントが寄せられ、大きな反響を呼んだ。

樋口 良子

樋口 良子

神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 講師

横須賀生まれ・育ち。市職員として教育・医療・福祉分野で管理栄養士を経験。現在は学生教育や研究に携わり、地域とのネットワークを活かした実践的な取り組みを大切にしている。人と関わることが好きで、笑顔が取り柄。

福岡 梨紗

福岡 梨紗

神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 助教

急性期病院にて栄養管理業務に従事し、急性期のほか、地域包括ケア病棟や緩和ケア病棟など幅広い病棟を経験。 多様な患者背景や課題に触れる中で、地域や在宅における栄養管理への関心を深め、在宅診療所にて訪問栄養相談の立ち上げを行う。 現在は母校に戻り、助教として学生教育や地域連携、研究活動に取り組んでいる。

藤谷 朝実

藤谷 朝実

済生会横浜市東部病院, 栄養部

急性期病院の栄養部長として、いち早く管理栄養士の病棟担当制を導入し、人材育成やマネジメントにも尽力。専門とする小児栄養をはじめ、さまざまな臨床現場でのジレンマにも向き合ってきた経験を持つ、信念ある管理栄養士です。そのあふれる包容力から、周囲からは“母”のように慕われています。